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『国際品種』、『固有品種』、『土着品種』とは?

ブドウ品種を説明する際に、『国際品種』や『固有品種』、『土着品種』、などの言葉を使う事があります。大体意味は分かるとして、その言葉の使われ方について、あれこれ勝手に考えてみようと思います。


『国際品種』と『固有品種』と『土着品種』

ファッションやスイーツに流行があるように、と言ったら極端だけれども、ワインにも流行があり、使われるブドウ品種にも流行があります。

一時期、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シャルドネといった、味わいにボリュームがあり消費者に人気の出やすい品種が流行し、世界各地に栽培が広がりました。そういった品種は『国際品種』と呼ばれています。


その後、『国際品種』の人気がひと段落し、ポルトガルの多くのブドウ品種などのような、もともとその地方で栽培されてきた品種、余り他の地方で見られない品種である、『固有品種』『土着品種』に注目が向けられるようになってきました。

もちろん、今でも『国際品種』は人気ですが、『国際品種』であっても、その地方の個性が出たスタイルの方が好まれる傾向がありますね。




『国際品種』とは

『国際品種』という言葉は、『国際的に広く栽培されている品種』という説明が適切かと思います。英語では、”International grapes”などと表現されます。

どこまでが『国際品種』に含まれるのか、というのはどこかで決められている訳ではありません。人によって認識にずれがあると思いますが、一般的に『国際品種』に含められるブドウ品種はこの辺りが多い様です。

【黒ブドウ品種】     
カベルネ・ソーヴィニヨン  
メルロー          
ピノ・ノワール      
シラー

【白ブドウ品種】
シャルドネ
ソーヴィニヨン・ブラン
リースリング


写真:【国際品種の王 カベルネ・ソーヴィニヨン】

そして、これらに次いで、ピノ・グリ、カベルネ・フラン、セミヨン辺りが含まれる事が多い感じですね。ゲヴュルツトラミネール、グルナッシュ辺りになるとちょっと意見が分かれてきそうです。

ピノ・ブランなどになってくると、『国際品種』として挙げる人は少なそうです。ピノ・ブランはシノニムも多く、多くの国で栽培されているのですが、ヨーロッパ外の栽培地が少ない、もしくは、生産量が多くない、というのが『国際品種』として挙げられにくい理由でしょう。

そういった訳で、『国際品種』というのは、『国際的に広く栽培されている品種』であるのに加えて、『国際的に広く認知されている品種』という意味合いも含まれているのだと思われます。




補足として、マイナーな使われ方の『国際品種』

補足ですが、O.I.V.(International Organisation of Vine and Wine / 国際ブドウ・ブドウ酒機構)が認定したブドウ品種の事を、『国際品種』と記載する事があるようです。『甲州が国際品種として認められた』という感じの記載ですね。

英語では、O.I.V.が認めているブドウ品種の事は、”The list of vine varieties of O.I.V.”, “O.I.V. list of grape varieties” という記載のされ方なので、『O.I.V. 認定品種』『O.I.V.リスト品種』という日本語訳の方が近い気もしますが、『国際品種』の方が、業界以外の人には話が分かりやすいのかもしれませんね。




『固有品種』とは

さて、『国際品種』より、ちょっとややこしいのが、『固有品種』と『土着品種』です。
この『固有品種』と『土着品種』という言葉の使われ方を考えてみたいと思います。

英語では、『固有品種』には、”unique variety of (産地) ”や、“original grape variety” など、『土着品種』には、”indigenous variety in (産地)”や、”native grape variety”と、表現されます。

『固有品種』は、『国際品種』の反対的な意味合い、と考えると、『世界的に広く栽培されていない品種』、『その地で主に栽培されている品種』、そして、『土着品種』というのは、『その地に昔から(もしくは長く)根付いている品種』というのがざっくりとした意味だと思います。

この『土着品種』と『固有品種』も若干のニュアンスの違いを感じるので、とりあえずは、『固有品種』を軸にして話します。

『固有品種』として挙げられるのは、ポルトガルのトウリガ・ナショナル、トウリガ・フランカ等の多くの品種。他には、ギリシャのクシノマヴロ、日本の甲州などでしょうか。

しかし、この『固有品種』に当てはまる品種にも幅あるように感じます。いくつかのパターンに分けてみたいと思います。


写真:【イタリアの固有品種、ピガート】

固有品種パターンA:『その地が発祥で、その地で育って、今も主要な品種』

このパターンとして間違いないのは、ジョージアのルカツィテリや、サペラヴィなどの品種。なんと言ってもヴィティス・ヴィニフェラの起源がジョージアにあると考えられているので、国を出た事が無いはずです。

また、ギリシャも同じで、紀元前4000年代後半にはブドウ栽培が行われており、そのまま移動せず、いくつかの突然変異をこの地で経て、今に至ると思われます。この辺の品種は、『固有品種』『土着品種』、どちらの表現でも、誰も反対しないでしょう。加えて『古代品種』なんて表現も使いたくなってきます。

また、オリジンとなるブドウ自体は、ギリシャ辺りから伝わってきているにしても、伝来されてから、交配されたり、突然変異したりして、今のその品種のキャラクターになった多くのヨーロッパの品種達も、このパターンに一緒にしてもいいでしょう。イタリアのグレーコ、グレカニコや、スペインのテンプラニーリョなどが、挙げられます。



固有品種パターンB:『他の地で広く栽培されていたが、別の地に伝来し、その地でも広く根付いた品種』

このパターンの代表としてアルゼンチンのマルベックを思い浮かべています。マルベックはフランスからアルゼンチンに19世紀に導入され、土地との相性が良かった為、広く栽培されるようになりました。今でもフランスで栽培されていますが、全生産量の7割強をアルゼンチンが占めており、「アルゼンチンの品種!」と思う人の方が多いでしょう。


写真:【アルゼンチンと言えばマルベック】

マルベックに対し『固有品種』という言葉は、なんとか使えそうですが、『土着品種』を使うのに若干抵抗があります。チリのカルメネール、アメリカのジンファンデルもこのパターンに当てはまりますね。



固有品種パターンC:『その地で人の手によって交配されて産み出された品種』

日本で川上善兵衛氏がベーリーとアリカント・ブスケを交配させて造り出したマスカット・ベーリーAや、南アフリカでアブラハム・ペロード博士がピノ・ノワールとサンソー(エルミタージュ)を交配させて造り出したピノタージュがこれにあたりますね。

このパターンも、ニュアンス的には、『固有品種』だけど、『土着品種』では無い気がー、とも思います。




『固有品種』に使われそうなんだけど、というパターン

ニュージーランドの、『その地で広く栽培されている品種』であるソーヴィニヨン・ブランにも、『固有品種』や『土着品種』という単語が使いたくなります。あれだけニュージーランドに広く根付いているから、『固有』『土着』と言っても良いのでは、と思ってしまうのです。ただ、まだ、広く栽培されるようになってからの期間が短いし、ソーヴィニヨン・ブランは世界で広く栽培されているので、やはり違いますね。


写真:【ソーヴィニヨン・ブランの聖地、マールボロ】

そんな時の表現として、『代表品種』『主力品種』という表現を見つけました。こっちの方がしっくりきますね。

英語で、”Flagship variety”という表現を見つけました。なんか力がみなぎってる感じがして良いですね。

フランス、ボルドー地方のカベルネ・ソーヴィニヨン、ブルゴーニュ地方のピノ・ノワール。この辺りも、両地方を代表する品種であり、元々は紀元前1世紀頃にローマ人によって伝えられたといっても、『その地で広く&長く栽培』されているという点において、『固有品種』、『土着品種』という言葉を使いたくなりますが、余りにも世界的に栽培が広まっている品種なので、『固有品種』『土着品種』とは言いづらいですね。

イタリアの『固有品種』『土着品種』と言えそうなサンジョヴェーゼも、今よりも世界の栽培エリアが広がると、『固有品種』『土着品種』ではしっくりこなくなるのだと思います。




まとめ

そういった訳で、あらためてまとめるとこんな感じでしょうか。

『国際品種』は、
『国際的に広く栽培されていて、広く認知されている品種』

『固有品種』は、
『その地で主に栽培されており、他で余り栽培されていない品種』

『土着品種』は、
『その地に昔から、もしくは長く、根付いている品種』

ある程度の定義づけは出来るものの、人によって認識の違いがあったり、時がたつにつれ流動したりする単語なので、使うのに少し気を使いますね。


写真:【こちらは日本の固有品種、甲州です。※ちなみに、ページのトップにあった写真は、この甲州の実の断面です。】