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解説ワイン用語:『ヴァッハウの独自格付け』
オーストリアには国全体でのワイン法もあるのですが、ヴァッハウ地方には独自の格付けがあります。それが少しユニークなネーミングなので紹介してみたいと思います。
by Wine-Link
最終更新日:2022-10-28
目次
ヴァッハウ地方とは
オーストリアのワイン産地は、国土の東の端に集まっています。そしてその北部のニーダーエステルライヒ州の一番西、ドナウ川流域にヴァッハウ地方は位置しています。
ヴァッハウ渓谷がユネスコ世界遺産に文化的景観として認定されているような美しい地方ですが、ワイン造りとしても大変名高い所です。
そんなヴァッハウ地方では、国全体でのワイン法とは別に、自分達独自の規定を設けており、ワインの品質に応じて、
レギュラークラス ⇒
『シュタインフェーダー(=きゃしゃな野草)』
ミドルクラス ⇒
『フェーダーシュピール(=鷹狩りの道具)』
トップクラス ⇒
『スマラクト(=エメラルド色のトカゲ)』
と、3つのクラスに分けています。
それにしても、『野草』や『トカゲ』など私達にしてみれば、何故こんな名前を付けたのか気になりますね。
日本語で言う所の、松竹梅的な感じなのでしょうが、いまいち馴染みがないですね。それぞれ見てみましょう。
写真:ヴァッハウ渓谷に佇むシェーンビューエル城
野草? 『シュタインフェーダー』 “Steinfeder”
まず、一つ目の『シュタインフェーダー Steinfeder』は、『きゃしゃな野草』と呼ばれ、軽いスタイルの白ワインのクラスに付けられています。
シュタインフェーダーはドイツ語で、『シュタイン Stein(=石の)』 + 『フェーダー Feder(=羽)』という意味なのですが、フワフワと綿毛のような野草、"Steinfedergras”から名付けられています。
この"Steinfedergras”という野草、日本語では、ナガホハネガヤと言い、学名は『スティパ・ペンナータ Stipa Pennata』です。
ヴァッハウの産地に広く自生しているこのきゃしゃな感じの野草が、羽のように軽く香りが良いので、軽くチャーミングなワインのイメージを表現するのに名付けられたのだそうです。
ネットで写真を見たら、タンポポの綿毛を長く伸ばしたような形で、ススキをもっとフワフワさせた感じだなー、と思ったらススキと同じイネ科でした。
規定としてはKMW糖度が15~17度必要で、残糖4g以下の辛口、アルコール度数は11.5度以下のものと定められています。
オーストリア国内のワイン法で区分すると、『クヴァリテーツヴァイン』のランクに属します。松竹梅で言うと梅クラスでしょうか。
鷹? 『フェーダーシュピール』 “Federspiel”
『フェーダーシュピール Federspiel』とは、『鷹狩りの道具』の名で、酸とミネラルのバランスが良く、程よく力がありキャラクターのはっきりとしたスタイルの白ワインのクラスに付けられています。シュタインフェーダーよりワンランク上のクラスですね。
フェーダーシュピールはドイツ語で、『フェーダー Feder(=羽)』 + 『シュピール Spiel(=遊び)』なのですが、これは、鷹狩りがさかんであった時代に鷹を呼び戻す為に使っていた道具で、紐の先に鳥の羽で作ったこの道具を付けたものを投げて使っていたようです。
写真:貴族を中心に行われていた鷹狩り
私なぞは一瞬勘違いしてしまうのですが、『鷹狩り』は、鷹を捕らえるのではなく、鷹で他の鳥や哺乳類を捕まえる狩りです。
しかし、その道具が何故ワインに、と思いますが、ヴァッハウで行われていた高貴なイメージの鷹狩りがこのエレガントなクラスのワインを表現するのに合うので、その鷹狩りをイメージさせる道具、『フェーダーシュピール』をこのクラスの名前にしたようです。
つまり、『流鏑馬(やぶさめ)』の上品なイメージがこの日本酒のクラスの名前に合っているから、流鏑馬の道具のひとつ、『鏑矢(かぶらや)』をこのクラスの名前としよう、とする感じですね。(←あくまで例え)
余談ですが、現代のフェーダーシュピールはモダンになっているようで、羽よりも革で出来たものが多いようです。
規定としてはKMW糖度は17~18.2度は必要で、アルコール度数は11.5~12.5度と定められています。
オーストリア国内のワイン法で区分すると、『カビネット』のランクに属します。松竹梅で言うと竹クラスでしょうか。
トカゲ? 『スマラクト』 ”Smaragd”
『スマラクト Smaragd』は、『エメラルド色のトカゲ』と呼ばれ、豊かな果実味と酸味が調和した、スケール感のある上質の白ワインのクラスに付けられた名前です。先ほどの2つの更に上のクラスですね。
『スマラクト Smaragd』というのはドイツ語で、エメラルド、エメラルド色という意味です。『ヨーロッパエメラルドトカゲ European green lizard』、ラテン名で『ラセルタ・ヴィリディス Lacerta viridis』という種のトカゲを指しているようです。
なぜトカゲが?
トカゲが更に高貴な象徴か?と思いますよね。
調べてみると、ヴァッハウの日照に恵まれた石垣の上で、生き物がよくひなたぼっこをしているのですが、その中のひとつである、この地に生息するエメラルド色のトカゲをその日照などの栽培条件の優れた所の象徴とし、そのような地から造られる上質なワインの品質分類名としたそうです。
このクラスのワインは、やや遅めに収穫されたよく熟したブドウを使っており、力強く凝縮感があり、上質で長期熟成に向くスタイルです。複雑な料理に合わせるのにも向いています。
規定としては、KMW糖度は最低18.2度アルコール度数は12.5度以上必要です。
オーストリア国内のワイン法で区分すると、『シュペートレーゼ』のランクに属します。松竹梅で言うと、松ですかね。
まとめ
ヴァッハウワインの協会である、ヴィネア・ヴァッハウ・ノビリス・ディストリクテュス(Vinea Wachau Nobilis Districtus)協会自身もHPで書いていますが、こういうふんわりした概念でのワインの品質分類は、世界的にも例を見ないです。
どれもなかなか個性のあるネーミングです。でも、こういうネーミングは、ワインを振興させていく際に効果的なのでは、と個人的には思います。
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