フランス ボルドー

シャトー・レ・ヴィミエール

ラフィット、ラトゥール、マルゴー、ムートン・・・
1級シャトーを手がける伝説のコンサルタント、ジャック・ボワスノ
彼とその息子エリックが自ら育て醸造を行う、僅か1.5haのシャトー

ボワスノの哲学 コンサルタントとしての哲学

ボワスノの哲学 コンサルタントとしての哲学

シャトー・レ・ヴィミエールを語るには、ジャック・ボワスノとその息子エリック・ボワスノという二人のコンサルタントについてお話ししなければなりません。なぜなら彼らの本業はコンサルタントであり、200以上のシャトーをコンサルタントする傍ら、唯一自らが所有するこのレ・ヴィミエールでは、細々と、ごく少量のワインを造っている程度だからです。

彼らはさほど有名なコンサルタントではありません。しかし一方では、ボルドーワインに携わる人間で彼らを知らない者はほとんどいないと言ってよいでしょう。そして彼らのことをこう呼ぶ人もいます、「伝説のコンサルタント」と。

その理由は、彼らがコンサルタント契約をしている生産者のリストを見れば一目瞭然です。

シャトー・ラフィット、ラトゥール、ムートン・ロートシルト、マルゴー、レオヴィル・ラス・カーズ、ピション・ロングヴィル・バロンにコンテス・ド・ラランド、グリュオー・ラローズ、コス・デストゥルネル、デュルフォール・ヴィヴァンにラグランジュ・・・。すなわち、ボルドーの頂点に君臨するスター・ワイナリーがこぞってボワスノ親子と契約を結んでいるということなのです。

しかし、これほどのシャトー達のコンサルタントがなぜ一般にその名が知られていないのか。著名なコンサルタントであるミッシェル・ローランやステファン・デュルノンクールなどと何が違うのか。この問いこそが、ボワスノ親子のワイン造りを知る一番のカギとなります。

デキャンター誌の記事の中で、サン・ジュリアン格付2級のシャトー・グリュオー・ラローズのグランド・アンバサダーであるデイヴィッド・ルネ氏は、ボワスノ親子について、『彼らは二人とも謙虚で内気、そして配慮のある人物なのだよ』と話しています。そして、『我々が彼らを起用したのは、彼らの目指すワインの方向性にある。彼らはバランスとエレガンス、そして果実味に優れたワイン、つまりメドック・スタイルに忠実であり続けようとしているからね。』と続けます。

『彼らは決して、流行りのスタイルとか、自分たちのやり方を押し付けるようなことはしない』と、長年ボワスノ親子と一緒に仕事をしているクロ・デ・キャトル・ヴァンのリュック・ティエンポン氏は語ります。『押し付けるのではなく、そのワイナリーにあったワイン造りを進める中で必要なアドバイスをくれるんだよ。』

最高の腕と、謙虚な人柄

最高の腕と、謙虚な人柄

写真:昔ながらの醸造施設・・・謙虚さの表れ?


ボワスノ親子が世間に知られていない理由は、大きく2つあります。

1つは、コンサルタントをしている多くのシャトーがすでに「トップ」であり、コンサルタントが前面に出ることはほとんどないからです。外部の意見は必要だが、それに染まることはできない。そんなシャトー・オーナーたちにとって、卓越した知識と経験を持つボワスノ親子は、まさに最高のパートナーとなりえます。

そしてもう一つの理由が、彼らの人柄です。デイヴィッド・ルネ氏が語るように、彼らはとても謙虚で、日本語で言えば奥ゆかしさのある人物です。メディアへの露出はほとんどなく、またそれを望むこともせず、畑やブドウと向き合うことにできるだけ多くの時間を使うようにしています。

コンサルタントに必要なこととして、ジャックはこう語ります。『ワインにはテロワールだけでなく、ワイン造りの哲学が潜んでいる。それを理解し、人の心を見られるようになる必要がある。』
また、エリックも同様に『コンサルタントをするとき、まずは何がワインの特徴を作っているかを知る必要があり、それには3、4年はかかるだろう。改善していくのはそれからだ。』と話します。

伝説のコンサルタント その生い立ち

伝説のコンサルタント その生い立ち

ジャックは天性の醸造家ではありませんでした。

1938年、ジャックの父親が軍隊にいた頃、レバノンの首都ベイルートで生まれました。家族でフランスに戻ったのはジャックが7歳のときでした。青年時代は、ワインとは全く無縁の生活でした。ジャックの両親はせいぜい安ワインを飲む程度で、ジャックは10代後半までコルクが刺さってるようなボトルワインなどついぞ飲んだことがなく、当然ワインを仕事にするなどという発想は全くありませんでした。彼は最初獣医を目指しましたが、うまくいかず、その後「簡単な仕事だから」という友人の勧めで、醸造の道に進むこととなりました。

転職して間もなく、彼の才能はすぐに開花しはじめました。その証拠に、彼の教授であり指導者だったかの有名なエミール・ペイノー氏は、すぐさま若い才能に注目し、ボワスノが醸造学の勉強を修了するや否や、5つの新しい醸造施設のうちジロンド河近郊にある施設の立ち上げを手伝うように頼んだのです。この研究所は、アントル・ドゥ・メール、グラーヴ、右岸、そしてメドックに二つ設置されています。ボワスノはそのうちのポイヤック支部を任され、そして仕事に没頭していきます。

頂点に君臨するシャトーたちを支える親子

頂点に君臨するシャトーたちを支える親子

写真:現在は息子のエリックが表舞台で活躍

ペイノー教授の引退後、ジャックは「あの」シャトーたちと仕事をするようになります。

1976年、非常に困難と言われた年。その当時、コンサルタントと呼べる人間は3人ほどしかおらず、エミール・ペイノー氏の教え子であるジャックにあるシャトーから声がかかりました。そのシャトーこそ、ボルドーの頂点、シャトー・ラフィット・ロートシルト。この76年のラフィットで一躍業界で名が知られるようになりました。そしてこれが、コンサルタントとしての契機であったとジャックは語ります。その後、1987年にマルゴー、2000年にはラトゥールと、そして2005年にムートンとコンサルタント契約を結びます。

ちなみに唯一5大シャトーで契約をしていないオー・ブリオンについて、一緒に仕事をしたいかとエリックに聞くと「私たちからは何もお願いすることはないし、今後もないよ。でも、依頼されるのであれば光栄なことだ。」との返事だったそうです。

息子のエリックにとっては、家から離れたところに手を伸ばす必要はありませんでした。「ここで生まれて、ここに住み、そして依頼主もここにいるんだ。理にかなってるよね。私はメドックでつくられるカベルネ・ソーヴィニヨンがとても好きで、この品種がワインにもたらしてくれるフレッシュさが好きなんだ。それはまさに魔法のようだ。サン・ジョセフのシラーと同じようにね。」と語ります。


そして1983年、彼らがコンサルタントとして必要な技術や知識、経験を身につけるための、言わば「実験シャトー」として、シャトー・レ・ヴィミエールを購入しました。200ものシャトーとコンサルタント契約をしている彼らだが、自身らが所有するシャトーはここが唯一です。

このシャトーで培われた経験値が、ボルドーの頂点に君臨するシャトーたちを支えているのです。

わずか1.5ヘクタールの畑

わずか1.5ヘクタールの畑

写真:若木にはウサギ避け用の青いネット

200社以上のワイナリーのコンサルタントを行う傍ら、ボワスノ親子はシャトー・レ・ヴィミエールを造っています。コンサルタント業、それもトップ・シャトーたちとの仕事ということで多忙を極める中、自分たちの所有する畑の管理や醸造の仕事はおろそかになってしまうのではないか、と心配してしまいますが、丁寧に手入れされた畑を一目見れば、それが杞憂であったことが分かります。

面積はわずかに1.5ヘクタール。生産本数は年間6,000本。非常に限られた生産量です。

『プロモーションやメディア活動にお金や時間を使うのではなく、できるだけ長く、畑でブドウを見たり、研究所でワインと向き合っていたいんだ』とジャック・ボワスノ氏は話します。その言葉通り、彼の畑を見つめる目は優しく、そして厳しさも感じられます。コンサルタントとしての彼らのポリシーは、まず畑を見ること。そして、オーナーの見据える方向性を感じ取ること、と言います。そのポリシーはレ・ヴィミエールでも同様です。

ブドウ樹齢は古いもので約50年。他に約20年の樹齢のものと、写真の若木が混在しており、平均40年くらいとなります。混在させているのは『これも実験の一つ』とのこと。

最良のブドウを収穫する

最良のブドウを収穫する

写真:畑には石がごろごろ

レ・ヴィミエールのワインには、メドックらしい端整なスタイルと、青さのない、完熟したブドウのアロマとジューシーな味わいが備わっています。その秘密を尋ねると、

『良いワインを造るために一番大切なことは、収穫のタイミングを見極めることと、選果をきちんと行うことです。』とのこと。

畑の土壌はガロンヌ河沿い特有の砂利質で、表面には石がごろごろと転がっています。また、ブドウ樹はとても背が低く仕立てられています。その理由は、地面との距離が近いことで、地面に蓄えられた熱がブドウの実を成熟させてくれるからです。

最高のプレス加減を見極めるために

最高のプレス加減を見極めるために

ジャック・ボワスノ氏のこだわりは、圧搾にも見られます。

プレス機は伝統的な垂直式の機械を使って、ゆっくりと丁寧に行われます。そして、どのタイミングがベストかを見極めるために、プレス加減を少しずつ変えて、その都度テイスティングを行います。その回数は100回から300回、多い時はなんと500回もテイスティングを行い、そのブドウにとって一番良いプレス加減を見極めるのだそうです。

とても地道で根気のいる作業ですが、このこだわりこそが、ブドウの持ち味を最大限に生かしたワイン造りの大切なステップとなるのです。

小さなセラーでじっくりと熟成されます

小さなセラーでじっくりと熟成されます

発酵にはステンレスタンク、熟成にはフレンチオーク樽を使用します。熟成期間は18か月間。 

醸造施設とセラーは同じ建物内にあり、ボワスノ親子の仕事場である研究所からも歩いてすぐのところにあります。そのため、常にワインの状態に目を光らせることができます。ワイン醸造については息子のエリック・ボワスノ氏が中心となって行っています。

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公開日 :
2013/10/23
更新日 :
2013/10/23

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