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解説!『A.V.A.』とは何?
アメリカのワインを調べていると必ず出会う単語、『A.V.A.』。 『A.V.A.』 とは何でしょうか? いくつかの角度から解説してみたいと思います。
by Wine-Link
最終更新日:2023-09-22
目次
『A.V.A.』とは、アメリカの『栽培エリア』です
アメリカのワインの名前や産地を見ていると、よく『A.V.A.』という記載が出てきます。
これは何でしょう。
まず、『A.V.A.』は、『エー・ブイ・エー』と読みます。
『NASA(ナサ)』みたいに、『アヴァ』とか、『アバ』と読まれる事は一般的にはないようです。
『A.V.A.』は一言で言うならば、アメリカでの『ブドウの栽培エリア』という意味です。〇〇A.V.A.は、〇〇のエリアで採れたブドウを使っています、という意味です。
その栽培エリアの名称を見る事で、どの辺りでそのワインのブドウが造られているのか、を知る事ができる訳ですね。
もう少し細かく言うと
もう少し細かく言うと、このA.V.A.は、American Viticultural Areas(アメリカン・ヴィティカルチュラル・エリア)の略で、日本語に直すと、『米国政府認定ブドウ栽培地域』という意味です。
『一定の地理的・気候的なブドウ栽培条件を持つと見なされる』エリアを定め、名称を付けています。同じA.V.A.の名が記載されたワインは、同じ地理的・気候的な栽培条件の地域内でブドウが造られている、という訳です。
(※A.V.A.内のブドウを85%以上使ったら表示できます)
このA.V.A.は、生産者達からの申請を受けて、TTB(酒類・タバコ税貿易管理局)という機関が審査し、認定を出しています。
A.O.C.やD.O.C.G.とはちょっと違う
こういった、『認証を受けている産地』というのは、なんかどこかで聞いたぞ、と思われる方もいらっしゃるでしょう。そうですね、フランスのA.O.C.やイタリアのD.O.C.などの、『原産地呼称』を思い起こさせますね。でも、同じ部分と、違っている部分があります。
同じ部分は、どちらもその産地名を名乗って良い栽培地区が決められているという点です。
違っている部分は、A.O.C.やD.O.C.などは、使用できるブドウ品種、最低熟成期間、造って良い色などが決められているのに対し、A.V.A.はそういった事は決められていない点です。
A.V.A.の難しい所
A.V.A.が決めているのが栽培地区のみ、という点の難しさは何でしょうか。
それは、A.V.A.の名前を見ただけでは、どんなタイプのワインか分からない、という点ではないでしょうか。
フランスでは、同じA.O.C.のワインは、沢山の規定内で造られているので、ある程度スタイルに共通する所がありますが、同じA.V.A.のワインでも、使っているブドウ品種、熟成の仕方は様々と、A.V.A.は自由度が高いので、共通性が少なくなります。
「バローロD.O.C.G.のワインは、規定でブドウ品種はネッビオーロを使って、最低38ヶ月寝かせているから、こういう味のワインだよね」、と言えるけれど、A.V.A.の場合は、そういう推測が難しくなります。
ただし、「ロシアン・リヴァー・ヴァレーA.V.A.の赤ワインは、比較的冷涼な産地だから、酸がしっかりしている事が多いよね。そして、冷涼な産地だから、品種はピノ・ノワールが多いよね。」というような、『地理的、気候的に似た環境のエリア』を元にした推測は可能なA.V.A.もあります。
生産者にとってA.V.A.の良い所
A.V.A.が基本、栽培区域しか決めていない事の良さは何でしょう。
生産者にとっての良さは、「とにかく自由だー!」、という点。
何色のワインを造るか、どんな品種を使うか、どれ位の期間熟成させるかも、灌漑をするかどうかも、全て生産者の自由です。
例えば、フランス、ブルゴーニュ地方を代表する銘醸地、ヴォーヌ・ロマネ村でリースリング種を使って白ワインを造ったら、せっかくの銘醸地ヴォーヌ・ロマネなのに、ヴォーヌ・ロマネA.O.C.という名前はラベルに書けなくなります。
ヴォーヌ・ロマネ村でリースリングの白ワインなんて面白そうな企画なんですが、ただのフランスワインとしか名乗れない、売れるかどうか分からないリスクにチャレンジするよりも、ヴォーヌ・ロマネという名で確実にニーズのあるワインを造る方が良いですよね。
写真:【自由を求め、渡米してくる生産者もいる】
消費者にとってA.V.A.の良い所
消費者にとって良い所は、ブドウ品種が分かりやすい事が多いという点です。
フランスのシャブリ地方では、シャルドネしか使えないという規定があるから、シャブリA.O.C.のラベルにはシャルドネという品種は記載されません。でも、アメリカではA.V.A.でブドウが決められていない事もあり、生産者は商品名にブドウ品種名を入れたり、ラベルに記載してくれたりする事が多いのです。
また、規定が少ない事もあり、概してラベルの記載はシンプルです。
写真:【ブランド名、ブドウ品種、産地、ヴィンテージという極めて最小限】
規定が多い国は、ラベルに色々記載してあり、どれが商品名なのか分からない事もありますが、アメリカのラベルはパッと見て、分かりやすい事が多いです。
まあ、規定が多い国も情報を裏ラベルに移したり、と近年変化があります。
A.V.A.は州をまたぐ事もあります
イタリアのD.O.C.でもそういうのはたまにあるのですが、アメリカのA.V.A.は州をまたいでいる事があります。
『一定の地理的・気候的なブドウの栽培条件を持つエリアの境界線』だから、州をまたぐ、というのは起こりやすいようです。
TTBはこの州をまたぐA.V.A.の事を、マルチステートA.V.A.(Multi-State A.V.A.)とカテゴライズしています。ちなみに、またがないA.V.A.は、シングルステートA.V.A.(Single State A.V.A.)です。
州をまたぐA.V.A.は現在17あるようですが、例としては、下記のA.V.A.があります。
▶コロンビア・ヴァレー(ワシントン州&オレゴン州)
▶ワラワラ・ヴァレー(ワシントン州&オレゴン州)
▶コロンビア・ゴージ(ワシントン州&オレゴン州)
A.V.A.のサイズ感
そういえば、A.V.A.はどんなサイズなのでしょうか?
広大な大地アメリカですから、A.V.A.のサイズもまちまちです。
大きいものになると、アイオワ州、ミネソタ州など4州にまたがって位置しているアッパー・ミシシッピ・ヴァレーA.V.A.のように770万ヘクタールあるものもあります。
小さいものだと、カリフォルニア州、メンドシーノ・カウンティにあるコール・ランチA.V.A.などは24ヘクタールしかありません。
写真:【24ヘクタールは、シャブリのグラン・クリュ位の大きさです】
有名なナパ・ヴァレーで50,000ヘクタールほど。ほんと様々ですね。
ちなみに、上記の数字は区画面積なので、実際の栽培面積はまた別です。ナパ・ヴァレーの栽培面積は区画面積の3/5程の18,400ヘクタールです。
新しいA.V.A.も追加されていっている
2023年8月末の段階で、A.V.A.はアメリカ全体で269ありました。
(そのうち149がカリフォルニア州に位置しています。)
そして、2023年の9月に新しく、Winters Highland(ウィンターズ・ハイランド)という名前のA.V.A.が認められました。これで、270になる訳ですね。
ちなみに、このウィンターズ・ハイランドというA.V.A.はカリフォルニア州のヨロ・カウンティとソラノ・カウンティをまたいで位置していて、大きさとしては3,000ヘクタール程のA.V.A.です。
申請から認可されるまで15年程かかった、との事。なかなか長い道のりですね。
内在する小さい区画のA.V.A.の意義
A.V.A.はそれぞれ独立して位置しているだけでなく、大きなA.V.A.の中に、小さな区画ですっぽりと内在している時もあります。
内在する、小さいA.V.A.というのは、あるA.V.A.の中で、その区画だけ、更に特徴的な気候・地形のあるという事で申請・認定されたA.V.A.です。
より小さいA.V.A.だからといって、そこを含んでいるA.V.A.と比べてどちらの方が上なのか下なのかという格付けではありません。
フランス、ブルゴーニュ地方であれば、ヴォーヌ・ロマネA.O.C.の区画の中に内在する小さな区画のロマネ・コンティA.O.C.はグラン・クリュに選定され、ヴォーヌ・ロマネA.O.C.より格が上ですが、A.V.A.ではそういう上下の決まりはないのです。
ただ、その狭い区画のブドウを使って個性を表現したワインが、市場で高く評価されるケースが増えると、そのA.V.A.自体の評価も上がり、レベルの高いA.V.A.と見なされるケースがあるのも事実です。
写真:【ナパ・ヴァレーでも評価の高い、オークヴィルA.V.A.】
まとめ
いくつかの点からA.V.A.を見てきましたが、一番大事な基本は、色々規定があるフランスのA.O.C.などと違い、アメリカのA.V.A.はあくまで栽培地域を決めているという点ですね。
アメリカのA.V.A.の制度も出来てまだ50年も経っていないので、これから変化していく可能性はあると思います。色んな議論もされているようです。
しかしながら、ざっくりとしか決められていない中で、生産者がパイオニア的に自由にワイン造りを行っている今のアメリカも魅力的ですね。
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