解説!『ラ・プラス・ド・ボルドー』

フランス、ボルドー地方には、『ラ・プラス・ド・ボルドー』と呼ばれる独自の流通システムがあります。今回は、その仕組みと近年の変化について解説してみたいと思います。

by Wine-Link

最終更新日:2022-08-31

『ラ・プラス・ド・ボルドー』とは

ボルドーの生産者は『シャトー』と呼ばれますが、5000程のシャトーが存在すると言われており、そのうちの7割が、『ラ・プラス・ド・ボルドー』(※以降、『ラ・プラス』と呼ぶ)の流通システムで取引されている、と言われています。1シャトーに2アイテムはあると考えると、7000アイテムほどが取引されている事になります。

通常、ボルドー以外では、生産者が輸入業者と直接、売買契約を結び、取引をするパターンが一般的です。

もしくは、小さい生産者の場合に多いのですが、生産者から仲買人が請け負い、輸入業者と取引をするパターンです。生産者は、船積みのやり取りや、価格交渉、クレームなどの対応を仲買人がまとめてやってくれる、というメリットがあります。

ボルドーの『ラ・プラス』で取引しない残りの3割のシャトーも、上記のいずれかのパターンでの流通スタイルとなります。



その仕組みは?

『ラ・プラス』の仕組みですが、『シャトー』が新しいワインを販売開始する時には、まず『クルティエ』にオファーをします。そのワインをクルティエは、『ネゴシアン』にオファーします。そして、そこで購入したワインは、ネゴシアンから各国の輸入業者に販売されます。

4月のプリムール販売がこの『ラ・プラス』の取引のひとつで、取引全体に対し、大きな比率を占めます。


この『クルティエ』というのは、100社ほどある、と言われていますが、実際にワインを購入して在庫する事はありません。

シャトーからオファーのあったワインを、ネゴシアンに電話やメールで案内をし、ネゴシアンが購入した際に購入額の数%のマージンがネゴシアンから支払われる、という仕組みです。

そして、『ネゴシアン』は300〜400社ほどあると言われていますが、クルティエから案内があったワインの購入の決定をし、マージンをクルティエに支払います。そして、ワインはクルティエを通過せず、シャトーからネゴシアンの倉庫に直接届けられ、在庫されます。

クルティエも、ネゴシアンも、7000を超すであろう、全てのワインが取り扱える訳ではありません。格付けシャトーを中心としたトップシャトーは、取り扱う事が出来るクルティエとネゴシアンを数社に限定しています。クルティエ、ネゴシアンにとって、5大シャトーなどのトップシャトーの取引が出来るようになる事は至難の業です。




ただ売買するだけではない

シャトーは、それぞれのネゴシアンがどういった顧客(=輸入業者)と取引しているか、どういった国に強いか、を知り、自分達のワインに適したネゴシアンに販売が出来るクルティエを選び、更にネゴシアンを限定して案内をかけます。

ちなみに、クルティエはネゴシアンとやり取りをするだけで、基本、輸入業者と関わる事はありません。シャトーはネゴシアンとも直で関わりがあります。どういった国で売れているか、とか、他のシャトーの動きなど、様々な情報収集をしています。



写真:プリムール(先物買付)の試飲に訪れる輸入業者達

『ラ・プラス』のメリットとは?

この『ラ・プラス』で取引をするメリットは何でしょうか?

まずは、販売網を広げやすい、という点です。1対1の取引よりも、エリア的にも、客層的にも、広い範囲に販売を広げやすくなります。販売網が広がる事で、同時に知名度も上がりやすくなります。

シャトーは、(ある程度ですが)、営業活動をネゴシアン、クルティエに任せ、ワイン造りにより力を注ぐ事が出来ます。

そして、シャトー、ネゴシアン、輸入業者、のそれぞれが、独占契約のワインと違って、人気の出たワインや、ジャーナリストの評価の高かったワインを、市場のニーズに合わせて価格設定をして販売し、利益を生む事が出来ます。



『ラ・プラス』のデメリットは?

では、逆に『ラ・プラス』で取引をするデメリットは何でしょうか?

まずは、複数の輸入業者が同じ銘柄を取り扱う事が出来る為、輸入された国で販売される際に競争が起こり、価格競争に陥りやすくなります。そして、輸入業者は一生懸命そのシャトーのワインをプロモーションした所で、値段の安い所から買われてしまう為、プロモーションに労力をかけるモチベーションが下がりがちです。

また、人気のシャトーやジャーナリストが高評価をつけたシャトーのワインは引き合いが強く、価格も高くなる傾向があり、消費者にとってはデメリットでしょう。(独占販売でも、「売れる!」と判断したタイミングでぐいぐい値段を上げてくる生産者もいますが(笑))

写真:プリムールの時期には、シャトー内の移動の為に、こんなカートが登場したりする

クルティエとネゴシアン、両方要るの?

「流通に、そんな何層もあるなんて、非効率じゃないか?」、「特にクルティエは要るのか?」と思われる方もおられるかもしれません。しかし、クルティエ、ネゴシアンと両方存在し、役割を分担する事で上手く行っているようです。

クルティエは販売業務だけににとどまらず、シャトーの栽培・醸造や、値付けなどの相談に乗る為、頻繁にシャトーに赴き話をします。

ネゴシアンは、各国のマーケットにおいてどんなシャトーのワインにニーズがあるか、どの価格であれば受け入れられるのか、などを輸入業者とやり取りし、理解に努めています。



写真:シャトーでの会食は情報交換の場

ボルドー以外のワインの参入

『ラ・プラス・ド・ボルドー』という名前の通り、『ボルドーで、ボルドーのワインが取引』されてきましたが、1996年に、チリのワインである『アルマビバ』が、ボルドー以外のワインとして初めて、『ラ・プラス』で取り扱われるようになりました。そして、2004年にはカリフォルニアのワインである『オーパス・ワン』も参入しました。

アルマビバは、シャトー・ムートン・ロートシルトとチリの生産者、コンチャ・イ・トロとのジョイントベンチャー、オーパス・ワンはシャトー・ムートン・ロートシルトとモンダヴィとのジョイントベンチャーでしたから、まだラ・プラスに加わるのは、自然な流れでした。兄弟特別枠参加、みたいな感じですよね。

拡大する、ボルドー以外のワインの参入 

ところが、その後、マッセートを始めとした、スーパータスカンと呼ばれるイタリアワインの参入が相次ぎ、ナパのカルトワインの参入と続きました。アルマビバやオーパス・ワン等と違い、そこまでの繋がりの無い他国の生産者が参入してきたという事は、『ラ・プラス』が、プレミアムワインの流通形態として価値がある、と考えた、という事になるでしょう。

そこからしばらくたった、近年、多様な地域の生産者の参入も増えてきました。

ローヌ、ニュージーランド、オーストラリア、シャンパーニュなど。基本は、『ラ・プラス』側から話を持ちかけている、というよりは、生産者側が参入を打診してくるようですから、今までの『ラ・プラス』への参入は成功であったと受け止められている訳です。プロモーションに動きにくい、現在のコロナ禍の影響もあるかもしれません。

また、多くの場合が、レギュラーアイテムは従来の独占契約のままで、トップキュヴェなどのプレミアムワインのみ、『ラ・プラス』での販売に切り替えています。

他の地域から『ラ・プラス』に参入し販売する、というのは、ボルドーワインと同じく、知名度アップ、販売網を広げられる、というメリット以外に、もうひとつあります。

今の所、低価格のカジュアルワインがラ・プラスに参入する事は無い訳ですから、『ラ・プラス』に参入する事で、市場からプレミアムワインとして認めてもらいやすくなる、という点です。

写真:試飲会場のシャトーと輸入業者達

ボルドーは歓迎している? 今後は?

ちなみに、ボルドーではこの流れは歓迎されているのでしょうか?
今後はどうなるのでしょうか?

ネゴシアン、クルティエは新しいビジネスチャンスが増える、という事で、基本、歓迎のスタンスのようです。

ボルドーのシャトーは、競争相手が増える事に難色を示す、という場合もあるでしょうが、『ラ・プラス』の更なる活況に繋がる可能性もありますし、案外外に目を向けて来なかったシャトーにとって、他のエリアのワインを知る良い機会になるなど、ポジティブな点もあるようです。

デメリットとしては、『ラ・プラス』で販売する場合、ワインは一度、ボルドーに送られ、ボルドーから先の国へ輸出される、という手間、タイムラグのデメリットはあります。また、トップキュヴェを『ラ・プラス』に持ち込まれた事で、レギュラーアイテムの販促へのモチベーションが下がる輸入業者もいるかもしれません。

それでも、現在、プレミアムワインにとって、『ラ・プラス・ド・ボルドー』は、有用で魅力的な流通システムと認められているようです。参入する生産者はしばらく続きそうです。


投稿者

  • やまくみ

    ・ソムリエエクセレンス(JSA認定)
    ・SAKE DIPLOMA(JSA認定)
    ・DIPLOMA LEVEL3(WSET認定)

    ワインの輸入商社にて、バイヤーを経験。
    退社後の現在は、ワインのなんでも屋をちみちみとやっている。


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公開日 :
2022/08/29
更新日 :
2022/08/31
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