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イギリス イングランド
ダンブリー・リッジ ワイン・エステイト
「イングランド最高のスティルワイン」と評される造り手
- Hyde Lane, Danbury, Essex
偶然の積み重ねが生んだ奇跡のワイナリー
写真:綿密に設計されたワイナリー
イングランド南東部、ロンドンから車で1.5 時間ほどに位置するエセックス州クラウチ・ヴァレー ダンブリー村に2012年に設立されたワイナリー。年間日照時間は1,850時間と仏ディジョンに匹敵する長さで、年間降雨量たった450mmほどの、イングランドで最も温暖で乾燥した場所にあります。白亜質土壌から生まれるスパークリングワインで名を馳せるイギリスですが、クラウチ・ヴァレ-にはシャトー・ペトリュスに顕著で、ラトゥール、シュヴァル・ブラン、ディケムなど、ボルドー銘醸シャトーの畑にも見られる、収縮膨潤性のあるスメクタイトを豊富に含む青粘土土壌が点在し、その恵まれた気候と希少な土壌から、スティルワインに適した非常に熟度の高いブドウを収穫することができます。ダンブリー・リッジのコンサタントであり、徹底的な畑の土壌調査を行ったジョン・アトキンソンMW (マスター・オブ・ワイン)は「この土地はイングランドのペトリュスと呼べるような、この国で最も優れた土地である可能性がある」と語るほど、高いポテンシャルを秘めた場所となっています。
ワイナリーのオーナーはエセックス州サウスエンド=オン=シー出身で金融業界で成功を収めたヘザー&マイク・バンカー夫妻。もともと夫妻にはワイナリーを造る計画はなく、1988年に娘のソフィーとジャニーンに資産を残すつもりで、出身地に近いダンブリー村に家と土地を購入したことから全てが始まりました。購入後、夫妻は土地を農家に貸し、そこで収穫される150種類以上の果物や野菜を使って自給自足の生活を楽しんでいましたが、その農家は常々「この土地は暑く乾燥しすぎていて穀物の耕作には不向きだ」と不平を漏らしていました。2012年のある日、家族の友人で娘がワイナリーに勤める人物が犬の散歩のついでに訪れ、畑を歩き回った後に「ここでブドウを植えることを考えたことは?」と尋ねたことで、夫妻はブドウ栽培を真剣に検討するようになりました。農家の指摘から、この土地には温暖なミクロクリマが存在していることに気付いてはいましたが、2013年にブドウ栽培家ダンカン・マクニール氏に依頼し、1年かけて土地と気候の綿密な調査を行ったところ、この土地がブドウ栽培に適した条件をすべて満たしていることが証明されたのです。
2014年、夫妻は初めて「オクタゴン・ブロック」と呼ばれる5ヘクタールの区画にシャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエ、バッカスの4種類のブドウを植えました(その後、バッカスは引き抜かれ、現在はディジョン・クローンのピノ・ノワールが植えられています)。選ばれたクローンは、緩やかな房と酸を保持するものでしたが、その中には偶然にもスティルワイン用のクローンが含まれており、これが後にシャルドネとピノ・ノワールのスティルワイン生産の可能性を発見するきっかけとなりました。
当初、夫妻には自らワインを造る予定はなく、収穫されたブドウは他のワイナリーに販売されていました。しかし2016年、ロゼワインを造るために彼らのピノ・ノワールを購入した醸造家リアム・イジコフスキー氏がその品質に驚き、当初の計画を変更してスティルの赤ワインを造りました。完成したワインを飲んだバンカー夫妻は、その味わいの素晴らしさに感銘を受け、自らの土地の可能性を強く感じ、ついに自らワインをリリースすることを決意しました。夫妻は土地の素晴らしさに気付かせてくれたリアムをワインメーカーとして迎え、ワイナリーを設立。ファースト・ヴィンテージの2018年は他社の醸造設備で造られましたが、2019年にはリアムの指揮の下、高品質ワインの生産を念頭に置いて設計された新しいワイナリー設備が完成しました。こうして偶然の積み重ねから誕生した「ダンブリー・リッジ」は、イギリスでは誰も成し得なかった高品質なスティルワインを生み出す野心的なワイナリーとなりました。瞬く間に数々のワイン評論家から高く評価されるようになり、短期間でイギリスのスティルワインのトップ生産者としての地位を確立しました。
経験と知識溢れるマスター・オブ・ワイン
写真:コンサルタント ジョン・アトキンソンMW
ダンブリー・リッジでコンサルタントを務めるジョン・アトキンソンMWは、1990年にコルシカ島パトリモニオのワイナリーで研修生としてワインのキャリアをスタートさせました。1999年にワイン業界でも最難関資格の一つとされるマスター・オブ・ワインの試験に合格し、そのテイスティング力に対して「マダム・ボランジェ・テイスティングメダル」を、執筆したブドウ栽培に関する論文に対して「ヴィラ・マリア賞」をそれぞれ受賞しました。その後もワインに関する研究を続け、マスター・オブ・ワイン資格取得後にワインやテロワール、ワインマーケティングに関する学術論文を複数執筆・発表しています。30年間のキャリアの中で、ジョンはリッジ・ヴィンヤーズ、アンヌ・グロ、アルマン・ルソー、テルモ・ロドリゲス、アルヴァロ・エスピノーサ、そして2020年半ばまでの18年間はシャンパーニュ・ビルカール・サルモンに勤務するなど、ワイン業界のトップ生産者たちと深く関わってきました。
ジョンがダンブリー・リッジと出会ったのは2016年、現ダンブリー・リッジ醸造家のリアムの師であったジョンが、ダンブリー・リッジから届いたブドウを偶然見て、その品質の高さに衝撃を受けたことから始まりました。経験豊富なジョンですら、エセックスにこれほど有望なテロワールが眠っているとは思ってもみなかったのです。それ以降、特に地質学や土壌学に関するその豊富な科学的知識によってワイナリーを助け、2018年からはダンブリー・リッジのブドウ栽培・醸造コンサルタントとして、ワイン造りやビジネスに深く関わっています。
ダンブリー・リッジの可能性を見出した立役者
写真:醸造責任者 リアム・イジコフスキー氏
北アイルランドで育ち、ワインのキャリアをスタートさせる以前はアマチュアジョッキーをしていた異色の経歴の持ち主。ワイン醸造家となることを決意した後は、カリフォルニア、オーストラリア、南アフリカ、ローヌ地方へと渡りワイン造りの技術を学びました。オーストラリアのハンター・ヴァレーにあるティレルズ・エステートや、カリフォルニア ロシアン・リヴァー・ヴァレーにあるウィリアムズ・セリエムなど、世界的に著名なワイナリーでの経験を通じて、細部にまでこだわる厳格な目を養いました。ブドウ栽培と醸造学の学位をトップクラスの成績で取得した後はイギリスのワイナリーで経験を積み、優秀な醸造家としてその名を広めました。
ダンブリー・リッジの醸造家となる前はデボンのライム・ベイで醸造を担当しており、当時購入したダンブリー・リッジのブドウが世界トップクラスの可能性を秘めていることにいち早く気付いた人物です。2018年にバンカー夫妻から醸造家をオファーされたリアムは、ダンブリー・リッジのワイナリー設備を建設することを条件にそのオファーを受けました。彼の指揮の下でデザインされたワイナリーは美しく機能的で、スティルワインとスパークリングワイン両方の生産に適応しています。以降イギリスにおける高品質スティルワイン造りをリードし、ダンブリー・リッジを卓越したワイナリーに押し上げた立役者です。
イングランドで最も温暖で乾燥した地域
写真:長い日照時間を誇る畑
イギリス南東部に位置するエセックス州は、イギリスで最も乾燥しており、最も日照量が多い地域であることが広く知られており、これは科学的なデータでも証明されています。ワイナリーのあるクラウチ・ヴァレーはエセックス州の中でも特に気候に恵まれており、現在ワイナリーの経営に関わるバンカー夫妻の娘ジャニーン・バンカー氏は「私たちが育った頃、冬になると少し離れたところでは雪が降りましたが、ここはいつも暖かく乾燥していました」と語ります。年間日照時間は1,850時間で、これはアルザスのコルマールやブルゴーニュのディジョンに匹敵する長さです。イギリスの他の都市と比べると、ロンドンの1,650時間やケンブリッジの1,500時間よりも日照時間が長いことが分かります。
年間降雨量は450mmと非常に少なく半乾燥地帯とさえ言える気候で、年間降水量2,000mmに達する地域もあるイギリスでは非常に珍しいことです。成熟期の9月には25度前後の気温を保ち、他の地域で70-80mmの雨が降ったとしても、ここでは雨を避けしっかりと糖度の上がったブドウを得ることが出来ます。ボトリティスの発生を心配する必要もありません。また、この地域にはクラウチ川と呼ばれる大きな川があり、ボルドーでジロンド川がメドックの気温を調整するのと同じように、この川が対流を制限し、地域に安定した気候をもたらします。霜が降りないことも、冷涼な北の産地では非常に大きな利点となっています。
ジョン・アトキンソンMWは、現在のクラウチ・ヴァレーの気候が1980年代から1990年代のブルゴーニュと非常に似ていると語っています。ワイナリー設立当初、ピノ・ノワールは5年のうち2年しか完熟しないだろうと考えられていましたが、この温暖で乾燥した気候と恵まれた土壌の組み合わせにより、ダンブリー・リッジでは現在まで毎年完熟したピノ・ノワールを収穫することが出来ています。
イングランドのペトリュス!?
写真:品質のカギとなる粘土質土壌
白亜質土壌から生まれるスパークリングワインで名を馳せるイギリスですが、イギリスの白亜質土壌はテムズ川河口の南あたり「ダートフォード・クロッシング」で終わり、それより北では氷河期の氷床が溶けた際に堆積した砂利質土壌と、「ロンドン粘土層」と呼ばれる粘土質土壌が顕著にみられるようになります。コンサルタントのジョン・アトキンソンMWは当初、ダンブリー・リッジには砂利質土壌が最適だと考えていましたが、収穫の直前に100mmもの雨が降った2020年に、粘土質土壌から収穫されたブドウが予想に反して高い成熟度を保っていたことに驚き、英国地質調査所と共同でこのエリアの粘土について詳しく調査を開始することになりました。その結果、クラウチ・ヴァレーにはシャトー・ペトリュスに顕著で、ラトゥール、シュヴァル・ブラン、ディケムなど、ボルドー銘醸シャトーの畑にも見られる、収縮膨潤性(水分を吸収すると膨張し、乾燥すると収縮する特性)のあるスメクタイトを豊富に含む青粘土土壌が点在していることが分かりました。この青粘土が持つ水分保持能力とブドウの樹に与える適度なストレスが、高品質なワインを生み出すカギとなることを突き止め、エセックス州の一部がA級のテロワールを持っているという考えに至りました。
一言に粘土質土壌と言っても、含有する鉱物の種類や量によってその性質は異なります。イライトやスメクタイトと呼ばれる鉱物は収縮膨潤性があり、特にスメクタイトは最も収縮膨潤性が高く可塑性(一度変形するとその形状を保持する性質)のある鉱物です。粘土質は透水性が低いため雨は表面に留まり土中に染み込むまでに時間が掛かりますが、スメクタイトやイライトには収縮膨潤性があることにより、一度染み込むと非常に高い保水能力を発揮するため、乾燥した年でも雨の多い年でも一定の水分量を保つことが出来ます。また、スメクタイトやイライトを豊富に含む粘土の塊を取り上げると、コンクリートのように固く、見た目よりも重たいことが分かります。そのため、安定した水分量を保ちながらブドウの根に適度なストレスを与えることができ、熟度の高い高品質な果実を生み出すことが可能になります。ジョンによれば、この「水分を保持し、適度なストレスを与えつつ、必要な時に徐々に水分を放出する能力」がブドウの品質の鍵であり、乾燥した年と多湿な年の両方でブドウ樹に有利に働くとしています。
英国地質調査所との調査結果を2021年にジョンがまとめた報告書「粘土質土壌とワイン」によると、この地域の大部分を占めるロンドン粘土層の主要鉱物はイライトで、(イライトも素晴らしい粘土鉱物ではありますが)ジョンが最も理想的だと考えるスメクタイトに富んだ粘土(青粘土)が占める範囲はずっと少なく、中でも特に良いエリアは200ha程しかないとされています。しかし、テムズ川河口の北側にあたるシューバーイネスから北上したエリア(グレート・ウェイカリングやカネードン)には、驚異的な収縮膨潤能力を持つ純粋なスメクタイト粘土の層があることが分かりました。ダンブリー・リッジはカネードンに新しく6haの土地を購入しブドウの植樹を進めています。スメクタイト粘土は大きなひび割れができる確率が高いため、ブドウの植樹が非常に難しく忍耐が必要ですが、長期的な視野で見るとそれだけの価値があるとワイナリーは考えています。「イングランドのペトリュス」と呼ばれるような、この国で最高の土地になる可能性があるとジョンは語ります。クラウチ・ヴァレーの土壌は非常に局所的であるため、ブドウ栽培に適切な場所を注意深く選ぶ必要がありますが、それが上手くいけば素晴らしい結果を得ることが出来るのです。
選び抜かれたブドウ畑
写真:オクタゴン・ブロックの畑
ダンブリー・リッジは2023-24年に新しく購入した2区画の土地を含め、合計約35haを所有しています。現在は2014年に最初に植樹された「オクタゴン・ブロック」を始めとする複数の畑からワインを造っており、畑はそれぞれ異なる土壌構成を持っています。クラウチ・ヴァレーの土壌は非常に局所的であるため、ブドウ栽培に適切な場所を注意深く選ぶ必要がありますが、それが上手くいけば素晴らしい結果を得ることが出来るのです。ワイナリーではスメクタイトを豊富に含む青粘土土壌が最良の土壌であると考えていますが、それだけでは十分でなく、ポムロールを含めた多くのワイン産地がそうであるように、ブドウが最適に育つためには砂利質土壌も必要であると考えています。
砂利質土壌は乾燥した年には熱を蓄えて、成長サイクルにおいてスプリンターのように、ブドウを早く成熟に導くことが可能です。粘土質土壌では適切にコントロールされた長い生育期間を得ることができるため、両方の土壌を併せ持つことにより、スプリンターと長距離ランナーの両方の長所を得ることが出来ます。砂利質は、雨の多い年にはブドウが水を吸い上げる危険があり、膨らんだりボトリティスが発生する可能性があるため好ましくありませんが、温暖で乾燥した年は粘土質よりも砂利質で育ったブドウの方が品質が高いこともあります。
また、植えられるブドウ品種によっても適切な土壌は変わります。高品質なピノ・ノワールを育てるためには適度な水分と栄養ストレスが必要で、これにはスメクタイト粘土が最適ですが、シャルドネはピノ・ノワール程のストレスは必要ないと考えられており、イライト粘土にもスメクタイト粘土にも向いています。シャルドネは水分を調整する能力が高いため、雨の多い年の砂利質土壌でも適切な成熟度を保つことが出来ます。このように、それぞれの畑の土壌構成やブドウ品種の特徴に合わせて、最適な組み合わせを選択することが重要なのです。ダンブリー・リッジの畑は綿密な調査を経たうえで、非常に慎重に選び抜かれています。
機能的で美しい醸造設備
写真:最上のオーク樽のみが並ぶバレルルーム
高品質ワインの生産を念頭に置いて醸造家リアムがデザインした醸造設備には、最高峰の設備が揃えられ、美しく機能的なワイナリーとなりました。6カ月の時間をかけて最高の樽やプレス機を選び抜き、スティルワインとスパークリングワイン両方の生産に適した設備を完成させました。
ダンブリー・リッジでのワイン造りはシンプルそのものです。シャルドネはコカール社製のプレス機でプレスされたのちにオーク樽へ移され、そこで12カ月から18カ月の間寝かされます。その間ほとんど人の手は加えられず、ステンレスタンクに移される前に1度だけバトナージュされるのみです。ピノ・ノワールは基本的には丁寧に除梗されますが、ヴィンテージによっては全房のまま醸造することもあります。コンクリートタンクで醗酵を行い、1日に2回のピジャージュが行われ、その後オーク樽に移されて12カ月から18カ月の熟成を経ます。オーク樽はシャサン社製のものや、ピノ・ノワールにはフランソワ・フレール社製、シャルドネにはルソー社製のものも使われます。オーク樽の購入時は関係者全員が集まってその味を確かめ、ダンブリー・リッジのスタイルに合わせて樽を調整しています。清澄剤は使用せず、ほとんどの場合ノンフィルターでボトリングされています。
「イングランド最高のスティルワイン」とも評される造り手
初ヴィンテージの2018年をリリースして以来の短期間で、数々のトップテイスターから高評価を獲得しています。
◆「イングランド最高のスティルワイン」
by ジェイミー・グッド氏、ワイン・アノラック
by マーティン・モラン氏、タイム誌
◆「彼らのシャルドネとピノ・ノワ-ルは、
これまでに味わったどのイギリスワインよりも既に高いレベルに達している」
by ニール・マーティン氏、ヴィノス誌
◆「これらは風景を一変させるようなワインだ。
他が苦戦するヴィンテ-ジでさえ成功しているのは、ただならぬワインである証拠である」
by トム・ヒュ-ソン氏、ティム・アトキン England Special Report 2022
◆「ダンブリ-・リッジはイギリスの土壌が何を生み出せるかを証明した。
完熟し、ブルゴーニュスタイルの贅沢なオーク樽の使用にふさわしい、素晴らしいワインである」
by ジャンシス・ロビンソンMW、フィナンシャル・タイムズ誌
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